あるり
- 目があった。じっと見た。ヒグマも私をじっと見る。数秒流れた。
「・・・坂本さん」
私の口はそう紡いでいた。息をすることも忘れた。
この懐かしい姿を忘れるはずもない。
「坂本さん!!!坂本さんじゃない!!どうして・・どうして!!!」
私は坂本さんの胸を責めるように叩いた。坂本さんはよろけながら、申し訳なさそうな表情をしているように見えた。
「私・・・あの日・・・どれだけ・・・・・・」
忘れるはずもない。忘れるはずもないのだ。あの日どれだけこのヒグマを、坂本さんを、呪ったかということ。
「・・・・・」
坂本さんは悔しい顔のまま何も話さない。私は坂本さんの胸元でむせび泣くことしかできない。
固く握っていたはずの両手が小刻みに震える。
洗濯物は地面に落ちてしまった。今は、ふさふさの胸毛に顔を埋めることにした。続きを読む - 驚いた。一瞬で当てる人間に僕は、未だ会ったことがないのだった。
そんな僕の心の中まで見透かしたような人間は、あろうことか、自分の半分にも満たない小ささ。
一生懸命こちらを見上げては、身長の割にずいぶんと鋭い眼差しでこちらを見上げている。
白く小さい顔に、薄桃色の唇をしっかりと結び、びっしりと睫毛に縁取られた黒く大きな瞳。
美少女である。
「で。どうなの?ある?ない?」
煽るような口調で捲し立てる。何度も折られ短いスカートとサラサラの髪が揺れた。
腕を組んでいるせいでまな板が更に強調されている。
「ない、よ」
声が震えた。美少女と喋るのはこれが、生涯17年で初めてのことだった。
反射的に否定したのは、人間の性とでも言うべきか。
心臓が全力疾走している。「そう?」なんて予想外に笑うから、余計に。続きを読む